2016年1月9日土曜日

63羽:寄生獣

「ママ〜頭踏んだらダメだよ〜。」
突然ムスメがダンナを制する。


昨夕からダンナの実家に帰省している。
年始の挨拶という訳で。

祖母宅にて挨拶を済ませ、行きつけの神社へ。
約1400年に設立された神社。

正月シーズンが終わったからだろうか。
俺らを合わせても3組しかいない。
社務所は閉まっている。
お堂も閉店ガラガラ。
更には、賽銭箱さえも見当たらない。
鈴だけがぶら下がり、風が境内を通り抜ける音さえ聞こえ、物静かさを醸し出しすぎている。

「こんなんで願い事が叶うのかよぉ。」
顔を3人見合わせて不思議がる。

お堂の隙間からダンナが見つけた。
賽銭箱はお堂の中で身を潜めていたのだ。

拳一つ入る隙間から、賽銭箱に向けて銭投げを開始。
ダンナは完投し、全てストライクで三振を取る。
俺は5枚中1枚を外し、フォアボール。
ムスメは5円玉1枚を、的外れに超外しデッドボール。

ダンナとムスメはニ礼ニ拍手一礼をし損びれてやり直した。

今年の願いは家族で叶わないだろう。

本日は成人式。
なのに、神社を閉めるとは。
経営の意図が読めない。

祈願できたかどうか分からない参拝を終え帰路に着く。


挨拶と同時にお年玉の回収を納めたムスメ。
今時のお年玉は一昔前と金額の桁が違いすぎる。
「一番のお金持ち〜♪」
喜ぶムスメ。
まんざら嘘でもない。

生まれた時から手を出さずに、保存に保存を重ね寝かせている。


ここダンナの実家もまた、保存に至れり尽くせりの古民家。

築約50年。

お客を通す為の正面玄関があるにも関わらず、俺らは台所横の土間から家に上がる。
敷居を跨いで土間へ。
長式台を経て居間へ。
奥には座敷が二間。寝室が三間。

正面玄関からは上り框を経て客間へ。
玄関は何人分の靴が並べられるのだろう。
とてつもなく広い玄関。
客室は10畳間。
これが二つも並ぶ。
荘厳な客室。

天井の梁は現代の家では再現できないほど一本木がず太く、部屋部屋を渡り、煤で燻かされ年代を感じる。
大黒柱も同様に一本木。あり得ない程の太さと存在感、威圧感

というか、このダンナの実家は完全なる遺産だ。
建築マニアの弟が見たら感涙するだろう。


「ママ〜頭踏んだらダメだよ〜。」
頭とは敷居の事。
俺が小さい頃から敷居は頭だと祖母から教えられ、半年以上前にムスメに1度だけ教えたことがある。

「頭を踏むと自分の頭も、家の頭も馬鹿になるよ。」
と、家屋の保存も含め軽く窘(たしな)めただけなのに、よく覚えてたな。


敷居は跨ぐ。
最近敷居を踏み倒して遊ぶ子供達を見たことがある。
親の顔が見てぇ。
一喝したくなる。

ここ第二の実家の敷居を初めて跨いだ日。まぁ、結婚の挨拶をしに初めて来た日でもある。

ダンナの父は拳を丸め、テーブルにそれを叩きつけながら待っていた。
今にも跳びかからんという体勢だった。
当然だろう。突然ダンナを奪いに参上したのだから。
正直、1、2発の覚悟はあった。
しかし、殴られもせず、普通に事は進んだ。
今でも鮮明に覚えている。
正直、生きている内で一番怖かった出来事だから。


それもまた思い出。
今では支援され、この「家屋」からも愛されるようになった。

守っていこう。
そして強くなろう。

それまでは、いや、いつまでも、寄生します。

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